どれくらい眠っていただろう、ぼくは夢を見ていた。
不思議な夢を。
気づくと、広大な草原でひとりたたずんでいた。
おそらく時間帯は、夕暮れ前だろう。
傾きだした太陽がまだそこに見えていて、大気が大地を十分に温めている。
大きな太陽が。
遠くには、雪をかぶって気持ち良く涼んでいるかのような山脈が見えている。
3,000メートルは優に超える山々だろう。
小さい頃から、3,000メートル級の山を身近に見ていたから感覚でわかった。
少し先には、緑の葉を豊かにたずさえるいくつかの大きな木々が立っていて、よく見ると、そのそばに1匹のキリンが立っていた。
どうやら今は集団行動はしていないようだ。
いや、そもそもキリンの生態を僕はよく知らない。
たった1匹のキリン。
それ以外に動くものといえば、風に揺れる短かな草木と、自信ありげにゆったりと流れていく大きな雲だけだ。
それ以外になにも見当たらない。
ここはどこだろう。
小さい頃から、写真やテレビで時折見ていたアフリカの草原のような景色、しかし、どこかは定かではない。
キリンを見るのはいつぶりだろう。
いつだったか田舎の富山の動物園で見て以来かもしれない。
人間に縛られることなく、自由にたたずむキリンを見るのは初めてだ。
しばらくの間、そのキリンを何気なく見ていた、
すると、キリンがゆっくりとこちらを振り向き、そして僕たちは目があった。
遠くにいるからか、目線の高さはほぼ一緒だった。
そのキリンは、やさしくて、つぶらな目をしていた。
その一瞬、会話ができる、言葉が通じる、そんな気がした。
ただ、お互い声を交わすことはなかった。
キリンの穏やかなその瞳に中に、気のせいか、そっとやわらかく、ほのかに小さな明かりが灯ったように見えた。
しばらく見つめ合ったあと、10秒だろうか20秒だろうか、そのキリンはゆっくり、ゆっくりと、こちらに背を向け、ぼくとは反対方向に歩いていった。
ぼくは、追いかけることなく、ただただそのうしろ姿を見ていた。
その姿が小さく点となり見えなくなるまで。
そっと静かに。
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機内に漂う肉や魚といった料理、さらには、お酒の匂いに鼻をさすられ、瞼をそっと開いた。
目が覚めた途端、いつもの夢と同じように、まるで霧のように、煙のように、夢の記憶が僕の頭の中から急速に消え去りつつあった。
ただ、キリンの瞳に灯った明かりだけは、僕の記憶の向こうへ行くことに、まるで抗うかのように、しばらくの間、頭の中に残っていた。
「Exucuse me?」
キャビンアテンダントの呼びかける声がして、僕はいっきに現実世界に呼び戻された。
そして頭の中の、霧に包まれた記憶は、霧とともに跡形もなく消え去っていた。
そういえば、だいぶお腹が空いたな。
つづく