【小説】キリンとゴリラ

【小説】キリンとゴリラ🦒🦍 その2

2023年12月24日

羽田空港からヘルシンキ・ヴァンター国際空港までおよそ13時間15分を要する。

そして、空港で2時間30分の乗り継ぎ時間を経て、バルセロナ エルプラット空港までさらに4時間。

トータル19時間40分の、まさにロングフライトだ。

ヘルシンキまでの機体はフランスが誇るエアバスのA350。

座席定員数は約300名。

羽田空港を出発する直前に周囲を見渡したところ、ざっと8割程度のシートが埋まっていた。

ビジネス客よりは、観光客の方が多いイメージだ。

顔つきでなんとなく、ビジネス目的なのか観光目的なのかは、見分けられるようになっていた。これから旅に出る、その期待と興奮に満ちた、楽しげな顔は、見ていても癒やされるものだ。

一方でビジネス目的の場合、どこかに、どうしても緊張の面持ちがでているのである。

まとっている色が異なっているのだ。

はたして、自分の顔は、他の人の目にはどのように映っているんだろうか。

自分が座るシートは「33J」エコノミー席の前方 通路側だった。

小さいころから大人になるまで、お気に入りは変わらず窓側のシートだった。

窓から、眼下に広がる雲をながめるのが好きだった。ふかふかの絨毯のように広がるまっしろな雲を、ただただ、じっとながめるのが、ほんとに好きだった。

「あの上にジャンプしたら、そっとやさしく雲が自分を受け止めてくれるんではないだろうか。

太陽のぬくもりを受けて暖かくなった雲が、そっと」

はたまた、大きな入道雲が窓の先に見えたときには、

「あの雲の中には、天空の城があるんではないだろうか、きっとあるよ」

などと妄想にふけるのがクセだった。

しかし、大人になり歳を重ね、いまではすっかり通路側の席をとるのが常となった。

固まった筋肉を弛緩させるため、トイレにいくため、立ち上がるたびに隣の人に気を使うのが、ある時から、えらくおっくうに感じるようになったのだ。
外の景色をみたい気持ちは残っていないわけではないが。

シートの33という番号は、大学に入学して背負った野球の背番号が33だったこと、そして、このゾロ目が気に入ったこともあり選んだものだ。

大学4年時には10番を背負うも、33という番号は自分にとって、なにかこう、初心に戻してくれるそんな番号なのだ。

おおきな揺れもなく、飛行は順調に続いている。

食事サービスまではまだ少し時間がある。

これから向かうバルセロナでのことに思いを馳せつつ、機体の揺れに合わせて、すこしうとうとするのもいいかもしれない。そんなことを考えながら座席に腰を深くうずめなおした。

つづく

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